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東京地方裁判所 昭和59年(行ウ)145号 判決 1989年9月25日

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五七年一二月三日付けでした原告の昭和五六年五月二一日から昭和五七年五月二〇日までの事業年度の法人税の更正を取り消す。

2  被告が昭和五七年一二月三日付けでした、原告の昭和五六年五月二一日から昭和五七年五月二〇日までの事業年度を欠損事業年度、昭和五五年五月二一日から昭和五六年五月二〇日までの事業年度を還付所得事業年度とした欠損金の繰戻しによる還付請求に対し、還付金額が九九三三万四〇二八円を超える部分につき理由がないとの通知処分を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  更正の取消請求

(一) 原告は、音響機器等の製造販売等を主たる業務とする資本金一九億七四〇〇万円の株式会社である。

(二) 原告は、昭和五七年八月二〇日、被告に対し、原告の昭和五六年五月二一日から昭和五七年五月二〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税につき、別表一の「確定申告」欄に記載の内容の確定申告(以下「本件申告」という。)をした。

(三) 被告は、昭和五七年一二月三日付けで、原告の本件事業年度の法人税につき、別表一の「更正」欄に記載の内容の更正(以下「本件更正」という。)をした。

(四) 原告は、昭和五八年二月二日、国税不服審判所長に対し、本件更正について別表一の「審査請求」欄に記載の内容の審査請求をしたが、同所長は、昭和五九年七月二日付けで、右審査請求を棄却する旨の裁決をし、同月三一日ころ、右裁決の裁決書謄本が原告に送達された。

(五) しかし、本件更正は、有価証券評価損につき、その損金算入を認める商法、企業会計原則及び法人税法のいずれの規定にも定めていない要件を加味して損金算入を否認したものであるが、これは租税法律主義を定める憲法三〇条に反するものであって、その結果、所得を過大に認定した違法があり、また、本件更正には右否認をしたことにつき何ら具体的な理由が附記されていない違法があるので、本件更正の取消しを求める。

2  通知処分の取消請求

(一) 原告は、本件申告を青色申告書によって行ったものであるが、昭和五七年八月二〇日、被告に対し、本件申告と同時に、本件事業年度を欠損事業年度、昭和五五年五月二一日から昭和五六年五月二〇日までの事業年度(以下「原告の昭和五六年五月期」という。)を還付所得事業年度として、別表二の「欠損金の繰戻しによる還付請求」欄に記載の内容の欠損金繰戻しによる還付請求(以下「本件還付請求」という。)をした。

(二) 被告は、昭和五七年一二月三日付けで、本件還付請求に対し、還付金額九九三三万四〇二八円を超える部分の還付請求は理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。

(三) 還付請求金額

(1) 本件事業年度の欠損金額

四八億四五四九万二一九一円

<1> 有価証券評価損の損金算入額を除く欠損金額

二億六九九〇万四七〇二円

ただし、右金額は申告に係るもので、それ以外に二二万二〇六〇円の減算漏れがあるので(被告の主張1の(一)の(3)参照)、それを合わせると右欠損金額は二億七〇一二万六七六二円となる。

<2> 有価証券の評価損

四五億七五五八万七四八九円

({1}) ケンウッド・U・S・A・コーポレーション(以下「訴外会社」という。)は、昭和五〇年五月九日、米国カリフォルニア州法により通信機の販売を目的として設立された会社であり、当初その商号をトリオケンウッド・コミュニケーションズ・インコーポレイテッド(以下「TKC」という。)としていたが、昭和五六年五月一五日、音響機器の販売を目的とする米国カリフォルニア州法人であるケンウッド・エレクトロニクス・インコーポレイテッド(以下「KE」という。)を吸収合併(以下「本件合併」という。)し、その商号を現在のケンウッド・U・S・A・コーポレイションに変更した。なお、訴外会社は、合併後も、合併前の組織形態をそのまま維持して事業部制をとっている。

({2}) 原告は、訴外会社の株式を別表三のとおりいずれも一株につき株式額面金額の一〇〇米ドル(以下、単に「ドル」と表示する。)で取得し、本件事業年度末において一九万九四〇〇株の株式(以下「本件株式」という。)を所有し、その取得価額は一九九四万ドル(円表示で四五億七五五八万七四八九円)であるので、これを帳簿価額としていた。なお、本件株式は、上場株式、店頭売買株式又は気配相場のある株式ではなく、非上場有価証券で気配相場のない株式である。

({3}) 訴外会社は、別表四のとおり、昭和五三年六月一日から昭和五四年五月三一日までの事業年度(以下、訴外会社の事業年度を「訴外会社の昭和五四年五月期」のようにいう。)以降大幅な損失を計上し、その資産状態は、同表の「純資産」欄に記載のとおり期間損失の累積額(以下「累積損失」という。)が拡大している状況にあり、訴外会社の同年以降の各五月期における発行済株式一株当たりの純資産価額も、低下の一途をたどり、昭和五七年五月二〇日(本件事業年度末)当時の純資産価額は約マイナス二〇四〇万九〇〇〇ドル、一株当たりの純資産価額はマイナス一〇一ドルであった。

({4}) 訴外会社の資産状態は、右({3})でみたとおり、本件事業年度末において著しく悪化しており、かつ、それによって本件株式の価額が著しく低下していたものであるから、原告は、本件事業年度の確定決算において、法人税法三三条二項、同法施行令(以下「施行令」という。)六八条二号ロに基づき、本件株式につき、その帳簿価額(円表示で四五億七五五八万七四八九円)を零円に減額し、その減額した金額四五億七五五八万七四八九円を損金に算入する経理をした(以下、右の経理を「本件評価損計上」という。)。

({5}) なお、仮に本件評価損計上が認められるためには、右({3})で述べた状況につき相当期間内の回復の見込みがないことが必要であり、かつ、そのことにつき原告に主張立証責任があるとしても、以下のとおり、訴外会社の資産状態の悪化及び本件株式の価額の低下が相当期間内に回復する見込みはなかった。

(a) 訴外会社の経営不振は短期的現象ではなく、米国内における音響機器の過飽和状況、主として日本の大手家電メーカーの市場参入による音響機器専門メーカーの占有率の低下、第二次石油危機以降の米国内の不況の継続、為替レートの激動、過剰在庫、高金利負担、高額の労働固定費等による長期かつ構造的な要因によるものである。

(b) 訴外会社は昭和五六年六月三〇日に九五〇万ドルの増資(以下「第一次増資」という。)を行い、一株当たりの純資産価額が訴外会社の昭和五六年五月期当時のマイナス一七三ドルからマイナス四五ドルとなったが、不良在庫の処分の過程で多額の売却損が発生し、また、米国市場における買主の連続かつ多数の倒産により多額の貸倒損失が発生し、さらに、不況が一段と悪化し、高金利傾向が加速して第一次増資による借入金の減少による積極的効果が減殺され、それ以上の借入れを必要としたことなどから、第一次増資をした日の属する訴外会社の昭和五七年五月期末には右増資額を超える一一四七万九三七六ドルの損失が発生し、債務超過額は二〇四〇万九〇七三ドルとなり、累積損失は四〇五五万九〇七三ドルに達し、一株当たりの純資産価額はマイナス一〇一ドルとなった。

(c) 原告が本件評価損計上をした日の属する本件事業年度が終了する昭和五七年五月二〇日から本件申告までの三か月間に、訴外会社には新たに二八六万四〇〇〇ドルの損失が発生することが明らかとなっていた。

(d) 訴外会社の昭和五七年五月三一日現在の資本金、累積損失、純資産価額を基本数値として、その後の一か月ごとの経営成績を加味して原告が行った経営判断では、右時期から三年後はおろか五年後においても資産状態の悪化が持続するというものであった。

(2) 原告の昭和五六年五月期の法人税額

五億三四三三万七四〇五円

(3) 右(1)及び(2)の各金額に基づき、本件事業年度を欠損事業年度、原告の昭和五六年五月期を還付所得事業年度とする欠損金の繰戻しによる還付請求金額は、別表二の「欠損金の繰戻しによる還付請求」欄に記載の計算のとおり、五億三四三三万七四〇五円となる。

(四) 原告は、本件通知処分に係る調査が東京国税局の職員により行われたことから、国税通則法七五条二項に基づき、昭和五八年二月三日、東京国税局長に対し、本件通知処分について別表二の「異議申立て」欄に記載の内容の異議申立てをし、同月一八日、右異議申立ては国税通則法八九条一項所定の通知とこれに対する原告の同意により審査請求がされたものとみなされ、国税不服審判所長は、昭和五九年七月二日付けで、右審査請求を棄却する旨の裁決をし、同月三一日ころ、右裁決の裁決書謄本が原告に送達された。

(五) よって、原告は、本件還付請求の金額のうち九九三三万四〇二八円を超える部分の還付請求は理由がないとする本件通知処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は、(一)ないし(四)の事実は認め、(五)は争う。

2  同2について

(一) (一)及び(二)の事実は認める。

(二) (三)について

(1)<1> (1)の<1>の事実は認める。

<2> (1)の<2>について

({1}) ({1})の事実は認める。

({2}) ({2})は、原告が昭和四四年七月三一日にKEから株式配当により取得した三五〇株の取得価額が三万五〇〇〇ドルであること、したがって、本件株式の取得価額の合計が一九九四万ドルであることは否認し、その余の事実は認める。右三五〇株の額面金額は三万五〇〇〇ドルであるが、取得価額は零であり、したがって、本件株式の取得価額の合計は一九九〇万五〇〇〇ドルである。

({3}) ({3})の事実は知らない。

({4}) ({4})は原告が本件事業年度の確定決算において本件株式につきその帳簿価額を零円に減額し、その減額した金額四五億七五五八万七四八九円を損金に算入する経理(本件評価損計上)をしたことは認め、主張は争う。

(右({4})の認否に対する原告の主張)

被告は、訴外会社の資産状態が著しく悪化した事実につき当初これを認めるとしたので、右事実につき自白が成立した。しかるに、被告はその後右自白を撤回し、右事実を争う旨述べるが、原告は右事実に関する被告の自白の撤回には異議がある。

(右原告の主張に対する被告の認否)

争う。

({5}) ({5})の冒頭の主張は争う。(a)ないし(d)は、(b)のうち訴外会社が昭和五六年六月三〇日に第一次増資を行ったことは認め、その余の事実は知らない。

(2) (2)の事実は認める。

(3) (3)は争う。

(三) (四)の事実は認める。

(四) (五)は争う。

三  被告の主張

1  更正の取消請求について

(一) 原告の本件事業年度における所得金額

(1) 申告所得(欠損)金額

(欠損)四八億四五四九万二一九一円

(2) 加算項目

有価証券評価損の損金算入否認額

四五億七五五八万七四八九円

原告は、昭和五七年五月二〇日、原告の子会社(株式保有割合九八・九六パーセント)である訴外会社の株式一九万九四〇〇株(本件株式)について本件評価損計上を行い、評価損の金額として四五億七五五八万七四八九円を本件事業年度の損金の額に算入しているが、右評価損の金額は損金に算入できないものであるから、本件評価損計上により減額された右金額と同額の金額を所得金額に加算したものである。

(3) 減算項目

<1> 附帯税額の損金不算入額の過大計上額

一四万七二〇〇円

<2> 特別償却準備金減算漏れ

七万四八六〇円

(4) 原告の本件事業年度における所得(欠損)金額は、右(1)の金額に右(2)の金額を加算したものから、右(3)の金額を差し引いた欠損二億七〇一二万六七六二円である。

(二) 本件更正の適法性

(1) 理由附記

<1> 法人税法一三〇条二項において更正の通知書に更正の理由を附記すべき旨を定めているのは、青色申告に係る所得の計算については法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障し、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものであるから、理由附記の程度は、相手方をして客観的に更正の理由を覚知し得るものであれば足り、どの程度の理由で足りるかは具体的事案によって異なるものである。帳簿書類の記載を否認して更正をする場合の理由は、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけでなく、そのような更正をした根拠を帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示して具体的にこれを明示することを要すると解されるが、帳簿書類に記載された基本的事実はそのまま認めながら、単に記載の法律的解釈ないし法的評価につき納税者と意見を異にして更正をした場合は、帳簿書類の記載を否認して更正をする場合と異なり、その更正の理由附記の程度としては、当該法的評価又は判断がどのような事項(勘定科目等)についてどのような結論に達したかを納税者に通常判断し得る程度に記載されていることで足りるというべきである。

<2>本件更正は、帳簿書類に記載された基本的事実である原告が子会社株式評価損勘定に四五億七五五八万七四八九円を計上した事実はそのまま認めた上で、これに対する法的評価、すなわち、右子会社株式評価損が法人税法三三条二項、施行令六八条二号ロに定める要件に該当するかどうかの判断につき、原告と見解を異にして更正をした場合であるから、その理由附記は更正に係る勘定科目及びその金額と、これに対する法的評価の結論とを示すもので足りるというべきである。そして、本件更正通知書には、({1})、有価証券評価損と認められない金額は四五億七五五八万七四八九円であること、({2})、本件株式は米国に所在する原告の子会社の株式であること、({3})、本件株式の発行法人に対する増資が昭和五六年六月三〇日に行われていること、({4})、評価損計上日(昭和五七年五月二〇日)は増資払込日(昭和五六年六月三〇日)から一一か月しか経過していないこと、({5})、したがって、増資による新株を引き受けて払込みをした後、相当の期間を経過しているとは認められず、評価損の計上ができる特定の事実に該当するものとは認められないこと、と明示されており、理由附記として欠けるところはない。

なお、右の相当の期間という文言は、いわゆる親会社と子会社間において増資があった後に、親会社がその有する子会社の株式について評価損を計上する場合につき、株式の価額の回復の見込みの有無の判断のための期間として増資後一一か月では短すぎるとの事実を踏まえた上の法的評価を明示したものである。

(2) 右(1)のとおり、本件更正の理由附記には違法はなく、また、右(一)のとおり、原告の本件事業年度における所得(欠損)金額は欠損二億七〇一二万六七六二円であるところ、これと所得(欠損)金額が同額の本件更正は適法である。

2  通知処分の取消請求について

(一) 株式の評価損の計上に関する法人税法の規定と商法及び企業会計原則の規定との関係

(1) 法人税法は、資産の評価損の損金算入を原則として認めていない(同法三三条一項)。ただし、法令に規定する特定の事実が生じたことによって、当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることになった場合に、法人が帳簿価額について確定決算において減額したときに限り資産の評価損の損金算入を認めている(同条二項)が、これもあくまで法人の任意に任されている。

そして、同法三三条二項及びこれを受けた施行令六八条は、各資産につき評価損の損金算入ができる特定の事実(以下「特定事実」という。)を定めるが、いずれも損失が固定化し、担税力が失われた場合を規定するものと解されるのである。

(2) 評価損の計上については商法及び企業会計原則にも定めがあるところ、商法では、資産の評価は、損益法的思想に立って投下費用の期間配分のためにその未費消部分を測定するという考え方に基づいて取得原価を基礎とする評価を原則とし、そのうち流動資産及び有価証券については、回復不能の著しい時価の低下があった場合又は固定資産につき予測不能の減損が生じた場合に限って評価損の計上を強制している(同法二八五条、三四条二号、二八五条の二第一項ただし書、二八五条の六第二項、三項)。また、企業会計原則では、資産の価額は原則として取得原価をもって計上することとし、資産の時価が取得原価より著しく下落し、回復する見込みがないときに限って評価損の計上を要求しており(企業会計原則第三の五)、いずれも資産の期末評価について原価主義の立場を取りながら、回復不能の著しい時価の低落や、予測不能の減損に限って評価損の計上を認めるものである。

(3) 法人税法及び施行令で定める評価損の損金算入ができる特定の事実は、商法及び企業会計原則における評価損の計上が強制される場合の事実と基本的に同一であると解されるが、法人税法が国の財政確保あるいは課税の公平及び画一性という特殊な要請(立法目的)を有していることから、債権者及び出資者の利益の保護を重視する商法及び企業会計原則の規定とその解釈を異にすることがあることはやむを得ないというべきであり、また、法人税法及び施行令で規定する評価損の損金算入ができる特定の事実は、具体的かつ限定的な表現になっており、商法及び企業会計原則のそれが抽象的であるのに対比して、解釈がより厳格にならざるを得ない。

(二) 株式の評価損の計上

(1) 法人税法上、非上場有価証券の評価損の損金算入が認められるには、(a)、「有価証券の発行法人の資産状態が著しく悪化したこと」、及び、(b)、「有価証券の価額が著しく低下したこと」を要件(以下「評価損損金算入要件」という。)とし、その間に因果関係があることが必要である(同法三三条二項、施行令六八条二号ロ)が、法人税法上原則として評価損の損金算入が認められないこと(同法三三条一項)、評価損の損金算入が租税回避として行われ易いこと、及び、一旦評価損の損金算入をした場合、その後において発行法人の業績が好転し、評価損を計上した有価証券の価額が回復したとしても評価益を計上することが許されないこと(同法二五条一項)などの点に鑑みると、評価損損金算入要件は、損失が固定化し、担税力が失われた場合を掲げたものであって、有価証券の価額の低下というのは一時的低下ではなく、確定的に価額が低下したことを意味すると解すべきであり、評価損の損金算入は、当該有価証券の価額が回復する見込みがないことが確実である場合に限って認められるものであるというべきであるから、評価損損金算入要件を充足するためには、近い将来において当該有価証券の価額が回復する見込みのないことが前提要件となっているのであり、これは法の解釈によるものであって、後記(3)で述べる法人税基本通達によって追加された要件ではない。

そして、このことは、株式の価額の評価上、発行法人の資産状態は重要な要素であって、資産状態の悪化と株式の価額の低下との間には相関関係があるから、資産状態の悪化につき回復の見込みがないことが株式の価額の低下についての回復の見込みがないことを認定するための重要な要件となり、資産状態の悪化につき回復の見込みがないといえない場合には、価額の低下についても回復の見込みがないということができないものである。

また、本件株式は、企業支配株式に該当するものであるところ、企業支配株式について一時的に保有する株式のような時価を考慮した価額を付することは適正でなく、長期的観点からする評価をすべきであるので、価額の一時的低下だけで評価損の損金算入を認めることは適当でないというべきであり、長期にわたって確定的に価額が低下したと認められるような場合、すなわち、近い将来その価額の回復の見込みがない場合に初めて、価額が著しく低下したものと認めるべきである。

(2) なお、右(1)で述べたことは、商法においても同様である。すなわち、株式の評価については原価主義が採用されているところ、商法二八五条の六第三項の規定は、取引所の相場のない株式についてその発行会社の資産状態が著しく悪化したときは、右株式の取得原価から相当の減額をしなければならない旨定めているが、資産状態が悪化した場合であっても、相当の期間内に回復する見込みがあると認められるときは評価換えは強制されないと解されているのであって、商法においても株式につき評価減をする場合には、発行会社の資産状態が悪化したということのほかに、その悪化した資産状態が相当の期間内に回復する見込みがないことが必要であると解されるのである。

(3) 法人税課税の実務においては、法人税法三三条二項、施行令六八条二号ロの具体的適用に際し、評価損損金算入要件の内容が必ずしも一義的でないことに鑑み、課税の公平、画一的取扱いを期する必要上、右要件に該当する事実に関し、以下のとおり解釈して運用している。

<1> 評価損損金算入要件の(a)については、形式的基準として、有価証券を取得して相当の期間を経過した後にその発行法人に、({1})会社の整理開始の命令又は特別清算の開始の命令、({2})破産の宣告、({3})和議の開始決定、({4})更生の手続の開始決定があった場合には右要件に該当するものとし(法人税基本通達九-一-九の(1))、また、実質的基準として、有価証券の発行法人の一株当たりの純資産価額を基準とし、当該有価証券の当該事業年度終了の日(期末)におけるその価額がその有価証券を取得したときのその発行法人の一株当たりの純資産価額に比して概ね五〇パーセント以上を下回ることとなる場合に右要件に該当するものとしている(同通達九-一-九の(2))。

この場合、有価証券の取得が二回以上にわたって行われている場合又は発行法人が増減資等を行っている場合には、その取得又は増減資等があった都度、その取得又は増減資等により増加又は減少したその有価証券の数及びその増減資等があった日における一株当たりの純資産価額を加味して当該有価証券を取得した時の一株当たりの純資産価額を修正し(以下、右の修正を「ころがし計算」という。)、これに基づいてその比較を行うものとしている(同通達九-一-九の(注))。

なお、右の一株当たりの純資産価額とは、発行法人の純資産価額(総資産の合計額から総負債の合計額を控除した金額)をその発行有価証券の総数で除して計算した金額を指すが、これは一種の解散価値を表すものであるから、この場合の総資産の合計額を算出するに当たっては、貸借対照表価額によるのではなく、その時点における時価(市場価額)を用いるべきである。また、総資産の合計及び総負債の合計を計算するに当たり、貸倒引当金のようないわゆる評価性引当金及び保証引当金のような負債性の低い引当金の額は、純資産価額の計算の正確性を確保するために、前者については資産額に加算し、後者については負債額から控除すべきである。

<2> 評価損損金算入要件の(b)については、当該有価証券の当該事業年度終了の時における価額がその時の帳簿価額の概ね五〇パーセント相当額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれない場合をいうものとして取り扱っている(同通達九-一-一〇、九-一-七)。

有価証券の当該事業年度終了の時における価額については、これを具体的に定める規定はないので、法の趣旨、取引の実情及び公正妥当な会計処理の基準に従って合理的な方法により算定した価額によるべきであるところ、法人税課税の実務では、({1})、売買実例のあるものについては、当該事業年度終了の日前六か月間において売買の行われたもののうち適正と認められる価額、({2})、売買実例のないものでその株式を発行する法人の事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があるものについては、当該価額に比準して推定した価額、({3})、右({1})及び({2})に該当しないものについては、当該事業年度終了の日又は同日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終了の時における一株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額をいうものとしている(同通達九-一-一四)。本件株式は非上場有価証券で企業支配株式に該当するので右({3})により評価をするのが合理的であるところ、右の通常取引されると認められる価額は、単に、一株当たりの純資産価額のみによって決定されるものではなく、営業権、将来性、経済情勢その他諸般の事情を総合して決定されるものであり、また、本件株式は企業支配株式に該当するから、企業支配に係る対価の額や親会社である原告の経常状況等をも参酌するのが相当である。

また、右の事業年度終了の時の帳簿価額とは、有価証券を取得した場合にその有価証券について記帳すべき価額をいうが、期中において増減資、合併等が行われて新たに株式の交付を受けた場合は、既に所有する株式又は新たに交付を受けた株式についてその変動に応じた取得価額の修正を行う必要があり、修正後の金額が取得価額となる(施行令三四条五項)。

(4) ところで、親会社が債務超過の状態にある子会社に対し増資払込みをする場合がある。このような株式時価に比して異常に高い株式額面金額で株式を取得するという非経済的行為とみられる増資払込みが行われるのは、そこに経済的な(含み)価値が認められるとともに、経験則上、業績の回復ひいては株式の価額の回復の可能性があると認められるからであるが、その投資効果が営業実績の上に反映するまでにはかなりの長期間を要し、ある程度の期間をかけて業績の動向を観察する必要があるところ、増資払込み後の株式につき評価損の損金算入をする場合には、増資払込みをしてから相当の期間を経過してもなお業況が回復せず、増資払込みによる純資産の増加分を上回る赤字の発生が生じ、むしろ悪化しているような事情が明らかになった場合に初めて資産状態の著しい悪化の要件に関し、評価損の損金算入ができる客観的条件が整ったことになるのであって、右の状態に達しない場合は、評価損損金算入要件の(a)を充足しないというべきであり、相当期間を経ずに評価損の損金算入をすることが許されるには、増資払込みがされた後に経済情勢が急変したとか、子会社が破産宣告を受けたり取引先が倒産して更に経営が悪化したなどの客観的な事情の変化等により、資産状態及び株式の価額の回復する見込みがないことが確実視される特段の事情がなければならない。この点について法人税課税の実務では、「株式(出資を含む。)を有している法人が当該株式の発行法人の増資に係る新株を引き受けて払込みをした場合には、仮に当該発行法人が増資の直前において債務超過の状態にあり、かつ、その増資後においてなお債務超過の状態が解消されていないとしても、その増資後における当該発行法人の株式については施行令六八条二号ロ《非上場有価証券及び企業支配株式の評価損の計上ができる場合》に掲げる事実はないものとする。ただし、その増資から相当の期間を経過した後において改めて当該事実が生じたと認められる場合は、この限りではない。」とする扱いである(同通達九-一-一〇の二)。

(5) したがって、有価証券の発行法人の資産状態あるいは有価証券の価額の回復の見込みが少しでも認められたり、回復するか否かの見極めができない場合は、法人税法上、当該有価証券に係る評価損を損金に算入することはできない。そして、有価証券の評価損の損金算入を認める規定は例外規定であるから、その前提要件である発行法人の資産状態及び有価証券の価額の回復の見込みがないことに該当することの主張立証責任は、その利益を受けようとする者にある。

(三) 本件評価損計上の可否

(1) 訴外会社は、設立当初の商号がTKC時代以来良好な営業成績を挙げ、いわゆる黒字会社であったところ、財政状態の不良ないわゆる赤字会社であるKEを吸収合併したものであるが、右吸収合併は、KEの再建を図るとともに、合併後の会社が十分経営できると考えたからである。

また、原告は、本件合併後の訴外会社が大幅な債務超過の状態にあったにもかかわらず、訴外会社が昭和五六年六月三〇日に行った九五〇万ドルの第一次増資に応じ、右増資に係る新株式の全部を引受け、それに係る株式全額の払込みをしている。この当時、訴外会社はKE部門における過剰在庫と高金利負担から多額の累積損失を抱えていたが、第一次増資により、資金調達と金利負担の軽減を図るとともに、積極的な在庫調整に努め、米国市場の調査、需要供給の動向調査を徹底的に行うなどの諸施策を講じ、その結果、昭和五七年五月ころには企業体質改善の実があがり、訴外会社の昭和五七年五月期の決算において、KE部門であったホームオーディオ関係の売上高が対前年度比一〇六パーセント、カーオーディオ関係の売上高が対前年度比一五九パーセントと増加し、右両商品関係の合計たな卸商品が対前年度比約七三パーセントと減少し、TKC部門であった通信機器関係は引き続き利益を計上するなど、経営の安定化が見られるに至った。

(2) 第一次増資の事実は、原告自身が訴外会社の営業成績及び経営状態が近い将来上昇傾向に転じ、本件株式の価額も回復するものと期待して行った何よりの証左であるが、原告が本件評価損計上をしたのは第一次増資後わずか一一か月を経過したに過ぎない時点であり、この時点では、増資後相当期間が経過したとはいえず、業績の回復も株式の価額の回復もないと判断することはできないので、その間は業績等の回復の見込みがないことが確実であるとはいえない。

また、訴外会社は、評価損損金算入要件の(a)に関し、前記(二)の(3)の<1>で述べた形式基準に該当せず、また、そこで述べた実質基準に関しては、訴外会社は第一次増資が行われるまでの間に増資を八回、株式配当を一回、合併を一回行っているから、その資産状態の判断基準とされる一株当たりの純資産価額を算定するためには右増資等の各時点でころがし計算を行う必要があるところ、右計算を行うための基礎資料は明らかでない。

さらに、有価証券の評価換えによる評価損計上の基礎となる当該有価証券の価額は、評価換えの時における価額ではなく、当該有価証券の発行法人の事業年度終了の時における価額によるべきであるところ、訴外会社の事業年度の期中である本件評価損計上時点において、本件株式の評価換えの適否は判断できないものである。

却って、右(1)にみられる訴外会社の経営状況によれば、原告が本件評価損計上を行おうとした段階では、訴外会社の昭和五七年五月期以降における業績は好転が期待されるようになっていたものと認められ、現に、同期における訴外会社の営業成績及び経営状態は好転していることからすると、本件評価損計上の時点では、近い将来において本件株式の価額の回復が見込まれる状況にあったといえる。また、債務超過となって純資産額がマイナスになっている場合でも、減資する見込みがなく、倒産の危険性がない上場会社の場合は、その発行株式の価額は額面金額以上の額を維持しており、非上場会社発行の株式でも同様の条件下にある場合には、その価額は株式額面金額を下回ることはないと考えられるところ、訴外会社についても減資の見込み及び倒産の危険性がないので、右と同様に実際取引される本件株式の価額は事実上株式額面金額を下らない状況にあるといえる。

(3) なお、原告は、本件評価損計上をした昭和五七年五月二〇日から二か月後の同年七月二一日に行われた訴外会社の一九八五万ドルの増資(以下「第二次増資」という。)に応じ、右増資に係る新株式の全部を引き受け、それに係る株式全額の一九八五万ドル(円表示で約五〇億五〇〇〇万円)を現金で払い込んでいるが、右増資は、原告において訴外会社の業績の回復と資産状態の改善の可能性について十分な熟慮期間を持って行ったものと考えられるものであり、また、右増資計画は、本件評価損計上時点において検討されていたものと推測されるところ、一方で業績回復を期待しながら、他方において本件株式の評価損を計上することは、経済的合理性を欠く不当なものといわざるを得ない。

(4) 以上によれば、本件事業年度終了時点においては、訴外会社の資産状態の回復の見込みが十分認められ、本件株式について価額の低下及びその価額の回復の見込みがないと判断できる状況にはなかったから、施行令六八条二号ロの要件を充足せず、本件株式の評価減による金額は、原告の本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入することができない。

四  被告の主張に対する認否

1  1について

(一) (一)の(1)の事実は認める。(2)は、原告が、本件株式につき、本件評価損計上をした事実は認め、本件株式の評価損を損金に算入することができないとの主張は争う。(3)の事実は認める。(4)は争う。

(二) (二)の(1)は本件更正通知書の理由として<2>の({1})ないし({5})に記載の趣旨の事由が記載されていることは認め、主張は争う。(2)は争う。

2  2について

(一) (一)について

(1) (1)は、法人税法三三条二項及び施行令六八条の規定が、資産の損失が固定化し、担税力が失われた場合にのみ評価損の損金算入を認める趣旨の規定であるとの主張は争う。

(2) (2)は、商法及び企業会計原則中の評価損の計上を定める規定の趣旨に関する主張は争う。

(3) (3)は争う。

(二) (二)について

(1) (1)は、法人税法上、非上場有価証券の評価損損金算入要件が(a)及び(b)に記載されているものであり、その間に因果関係があることを必要とすること、評価損を計上した有価証券の価額が回復したとしても評価益を計上することが許されないことは認め、その余の主張は争う。

(2) (2)は、商法上、取引所の相場のない株式について評価減をする場合、発行会社の資産状態が悪化したことのほかに、その悪化した資産状態が相当期間内に回復する見込みがないことが必要であるとの主張は争う。

(3) (3)及び(4)は、被告主張の内容の法人税基本通達があることは認め、主張は争う。なお、(3)の<1>の第二段(ころがし計算)の主張は、時期に遅れた主張であるから、却下されるべきである。

(4) (5)の主張は争う。

(三) (三)について

(1) (1)の第一段は、訴外会社の元の商号はTKCであって、KEを吸収合併したこと、右吸収合併当時、TKCは黒字会社であり、KEは財政状態の不良な赤字会社であったことは認め、主張は争う。

第二段は、原告が第一次増資に応じ、右増資に係る新株式の全部を引き受け、それに係る株式全額を払い込んだこと、訴外会社は、第一次増資当時、KE部門における過剰在庫と高金利負担から多額の累積欠損を抱えていたこと、訴外会社の昭和五七年五月期の決算において、KE部門であったホームオーディオ関係とカーオーディオ関係の合計たな卸商品が対前年度比割合で減少したこと(ただし、その減少率は対前年度比約七二パーセントである。)は認め、その余の事実は否認する。

(2) (2)の主張は争う。

(3) (3)は、原告が昭和五七年七月二一日に第二次増資に応じ、右増資に係る新株式の全部を引き受け、それに係る株式全額の一九八五万ドル(円表示で約五〇億五〇〇〇万円)を現金で払い込んだことは認め、主張は争う。

(4) (4)の主張は争う。

五  原告の反論

1  被告の主張2の(一)について

(一) 商法二八五条の六は、株式その他の出資の評価を定める規定であるが、株式についてはその取得価額を付することを要すると定め(同条一項)、原則として取得原価をもってその帳簿価額とする主義(以下「原価主義」という。)を採用する一方、一定の事由が生じたときは評価減を強制し、取引所の相場のない株式については、その発行会社の資産状態が著しく悪化したときは相当の減額をすることを要するとしている(同条三項)。そして、右は、子会社株式であると短期保有株式であるとを問わないものであり、株式会社の会計帳簿に付すべきあらゆる株式の価額に適用されるものである。

(二) 企業会計原則の第三貸借対照表原則の五は、資産の貸借対照表価額を定めるものであるが、そのBには、有価証券については原則として購入代価に手数料等の付随費用を加算し、これに平均原価法等の方法を適用して算定した取得原価をもって貸借対照表価額とするが、取引所の相場のない有価証券のうち株式については、発行会社の財政状態を反映する株式の実質価額が著しく低下したときは、相当の減額をしなければならないと定めており、右の実質価額の著しい低下というのは資産状態の著しい悪化と同義のものである。

(三) 法人税法三三条は、資産の評価損の損金不算入等を定める規定であるが、同規定によれば、内国法人が資産の評価換えをして帳簿価額を減額しても、その減額した部分の金額は原則として損金に算入しないとするが(同条一項)、右資産につき災害による著しい損傷その他の政令で定める事実が生じたことにより、当該資産の価額が帳簿価額を下回ることとなった場合において、評価換えをして損金経理によってその帳簿価額を減額したときは、その減額した金額のうち、評価換え直前の帳簿価額とその評価換えをした日の属する事業年度終了の時の当該資産の価額との差額に達するまでの金額は、当該事業年度の所得の計算上、損金として算入する旨定め(同条二項)、このように例外的に減額した金額を損金に算入することを認める。そして、右規定を受けて評価損の損金算入が認められる例外的事由を定めている施行令六八条二号ロには、証券取引所において上場されていない有価証券及び証券取引所において上場されている有価証券で企業支配株式に該当するものについて、その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したこと、とのみ規定している。

(四) 以上のとおり、取引所の相場のない株式あるいは証券取引所に上場されていない株式につき、発行法人の資産状態が著しく悪化したときは、商法及び企業会計原則では当該株式の帳簿価額の減額を強制し、一致した取扱いを規定している。法人税法では、その規定自体からは当該株式の帳簿価額の減額を強制するものではなく、さりとて任意的であるともいっていないが、内国法人の所得金額の計算に関する基本的な規定である同法二二条は、一項において所得の算式の原則は益金から損金を控除することにあること、二項において益金の範囲、三項において損金の範囲、四項において当該事業年度の益金及び損金の額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨定めているように、法人税法は企業会計原則をその一部として取り込んでおり、商法及び企業会計原則に依拠するものであるから、法人税法においても取引所の相場のない株式の評価減については商法及び企業会計原則と合致させ、統一的な取扱いをすべきである。

2  同2の(二)について

(一) 取引所の相場のない株式の評価損の損金算入を行う場合において、発行会社の資産状態が著しく悪化したとの要件(評価損損金算入要件の(a))につき相当期間内の回復の見込みの有無との関係を定める明文の規定は商法、企業会計原則及び税法にはなく、右各法律が評価減あるいは評価損の損金算入を行う場合の要件として定めているのは右1の(一)ないし(三)で述べた事由以外にないので、発行会社の資産状態が著しく悪化したと認められるときは原則として評価減を強制され、評価損の損金算入が許されることになる。ただし、例外的に発行会社の資産状態の悪化が相当期間内に回復する見込みがあるときは、これを明文にはない解釈による制限事由(障害要件)として当該株式の評価減を行わないことが許されることがあるとしても、右の回復見込みの有無が不明の場合は、原則どおり評価減をすることが強制され、評価損の損金算入が認められることになる。このように、取引所の相場のない株式の評価損の損金算入を行うにつき、発行法人の資産状態の悪化が相当期間内に回復する見込みがない、ということは積極要件ではない。却って、右事由を要件とする解釈・取扱いは、法律の明文にない要件を追加するもので、租税法律主義を定める憲法三〇条、法人税法三三条に反するものである。

(二) 仮に、発行法人の資産状態の悪化につき相当期間内の回復の見込みの有無が株式価額の評価減あるいは評価損の損金算入の要件になるとしても、以上に述べたことから明らかなとおり、相当期間内に回復の見込みがあることが評価減あるいは評価損の損金算入の制限事由(障害要件)として、評価損の損金算入を否定する者に主張立証責任があるというべきである。また、資産状態の回復の見込みについては、単に回復するというような経営成績の上昇の見込みだけでは足りず、商法二八五条の二第一項ただし書に照らし、株式の価額が取得価額まで回復する見込みがある場合でなければならないというべきである。

(三) 通達は、行政実務上、法律の内容を明らかにし、当該法律の解釈及び適用の統一を図るという趣旨に基づき、法規の解釈等を示すものに過ぎないから、このような意義しか持たない通達によって法律の明文にない要件が追加加重されることはなく、また、通達によって法律解釈が拘束されるものでもない。

(四) 純資産価額の計算に関する被告の主張2の(二)の(3)の<1>については、取引所の相場のない株式の評価損の損金算入を行う場合に行う資産状態の悪化の判断は貸借対照表価額によって算定される純資産価額により、当該株式の価額の低下の判断は、当該株式の帳簿価額と評価損計上時点におけるその時価である一株当たりの純資産価額の比較によるべきである。

なお、訴外会社の貸倒引当金は、我国の法人税法に定められているような一定率を用いて算出されるものではなく、売掛金の回収可能性を現実に吟味して引き当てられたものであり、我国の商法でいう取立不能見込額に相当するものである。法人税法五二条の規定は、限度額の範囲において貸倒引当金の損金性を認めており、商法においても、利益配当の限度を定める同法二九〇条の規定は、会社の純資産価額につき同法二八七条の二の規定で計上を認める引当金の加算修正を定めておらず、したがって、純資産価額の計算上、この貸倒引当金額を資産額に加算すべきであるとする被告の主張は、商法及び法人税法に反するものである。

また、訴外会社の保証引当金は、販売した製品の保証、修理に要する費用を米国会計法規に基づき引当計上しているものであり、我国の商法二八七条の二の規定に合致している。法人税法においても、同法五六条の二の規定で製品保証等引当金繰入額の損金性を認めており、貸倒引当金と同様に、純資産価額の計算上、保証引当金を負債額から控除すべきであるとする被告の主張も、商法及び法人税法に反する。

(五) 株式の時価の計算に関する被告の主張2の(二)の(3)の<2>、同(4)については、(1)、株式の取得価額とは、株式取得時の当該株式の一般的な時価をいうのではなく、取得に際し現実に投下、支出した価額をいうものであること、(2)、株式の取得が数次にわたり、その各取得時の発行会社の資産状態が異なる場合でも、本件株式の場合は、同一会社の株式であり、かつ、同一の価額で取得した株式であるから、取得時を異にする株式の間の経済的価値に差をつけることができないこと、(3)、数次にわたる株式の取得の間に増資等がされた場合にも、その増資等による純資産の増減はあっても、資産状態の悪化をもたらしている累積損失の額には影響がないことからすると、取得ごとにあるいは増資等がされる都度それぞれの取得に係る株式の取得価額の修正をする必要はない。

仮に、本件株式について施行令四一条の規定にのっとり取得価額の修正をしても、その第一次増資の前後いずれの時点で取得した株式も発行(取得)価額が一〇〇ドルであって、同一の価額であるから、修正後の取得価額も一〇〇ドルとなり、修正による取得価額の変動はない。

3  同2の(三)について

(一) 企業がその経営成績を表示するに際して使用すべき売上高は、一般に値引き前売上高(総売上高)から値引き及びリベート(売上値引き及び戻り高)を控除したいわゆる純売上高であるところ、被告が主張するKE部門の対前年度比売上高の割合は、値引き前売上高によるものであって、真の経営成績を反映したものではない。

また、たな卸商品が対前年度比の割合で減少しているが、それでも適正規模の在庫量をはるかに超えるものであり、経営の安定化というにはほど遠いものである。

(二) 原告が第一次増資に応じたのは、原告は、昭和五六年当時、その事業の六五パーセントを海外市場に依拠しており、訴外会社はその大半を担う重要な子会社であって、訴外会社の経済的破綻は海外貿易に依存せざるを得ない原告の経営をも根底から揺さぶる危険を持つものであったから、借入金を減少して利息債務の発生を抑え、累積損失の増加をくい止め、訴外会社の破産という不測の事態を避け、両社の存続を図るための緊急の必要から応じたものである。第一次増資の払込金九五〇万ドル(円表示で二一億二二五九万九九九八円)は、そのうち、四四一万四〇三六ドル(円表示で一〇億円)は原告から訴外会社に対する貸付金一〇億円をもって払込金に充当して右貸付金債務の弁済に充てられ、残額五〇八万五九六四ドル(円表示で一一億四四五九万九九九八円)は原告が現金で払い込み、同払込金は訴外会社のトリオケンウッドエレクトロニックスN・V社に対する借入金債務元金五〇〇万ドルとその未払利息の弁済に充てられた。

(三) 被告が主張する資産状態が近い将来回復するという場合の「近い将来」というのは、遠い将来に対応する概念であるから、その程度にはおのずから限度があるというべきところ、法人税の申告が一年を超えない期間内に行うことになっていること(法人税法一三条一項、七四条一項)、申告書には各資産につき価額が付された貸借対照表を添付することとされていること(同法七四条二項)に照らせば、右の「近い将来」とは一年を超えることは許されず、常識的には最長でも次の決算期までの期間の半分の六か月程度の期間をいうものである。そして、請求原因2の(三)の(1)の<2>のとおり、原告が本件株式の評価損を計上した後六か月先までに訴外会社の資産状態の悪化が回復し、本件株式の価額がその取得価額である一株一〇〇ドルまで回復する見込みは全くなかった。

また、仮に法人税基本通達九-一-九を前提として訴外会社の純資産価額の計算に当たりころがし計算を行っても、本件株式の評価損の損金計上をした時点における訴外会社の資産状態の悪化率は七三パーセントに達しており、同通達でいうところの資産状態の著しい悪化が認められる状態にある。

(四) 株主が増資に応じることは、株主に増資に応じる資力があることを意味しても、増資払込みを受ける会社に業績回復の力があることを意味するものではない。子会社の株式につき評価損計上をするような場合において親会社が増資に応じるのは、倒産状態に瀕した当該子会社の倒産及び子会社の倒産による親会社自身の経営上の危険をやむなく回避するためである。このような状況にある子会社は、もはや自力で資産状態を回復できる状態にはないというべきである。

(五) 原告が第二次増資に応じた理由及び状況は右(二)で述べた第一次増資に応じた理由及び状況と同じであり、その払込金は直ちに訴外会社が負担していた借受金債務の弁済に充てられたのであるが、株式の評価損計上の可否は、評価損計上時において発行法人の資産状態が著しく悪化したため、株式価額が著しく低下したと認められるか否かにかかるところ、仮に株式の評価損計上につき法人税基本通達九-一-七を前提としても、(1)、本件株式の時価は、同通達でいうところの株式の評価減を行う際の判定要素の一つである取得価額の五〇パーセント以上低下していた場合であること、(2)、第二次増資は原告が本件評価損計上をした後に生じた事情であること、(3)、同通達でいう「近い将来その価額の回復が見込まれない」というのは、発行会社の自力による株価の回復を意味しているが、第二次増資による株価の回復は訴外会社の自力による株価の回復でないことからすると、第二次増資に係る事情を本件評価損計上の可否を判断する判定要素として取り上げることは相当でない。

六  原告の反論に対する認否

1  原告の反論1、2は争う。

2  同3の(一)は争う。(二)は、原告が昭和五六年当時その事業の六五パーセントを海外市場に依拠しており、訴外会社はそのうちの大半を担っていたこと、第一次増資の払込金が原告主張のとおりの形態で払い込まれ、その主張のとおりの用途に充てられたことは認め、主張は争う。(三)ないし(五)の主張は争う。

第三  証拠<省略>

理由

第一  更正の取消請求

一  請求原因1の(一)ないし(四)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  原告は、本件更正には本件株式の評価損の損金算入を否認したことにつき理由附記不備の違法があると主張するので、この点について検討する。

本件更正の通知書には、本件株式の評価損の損金算入を否認した理由として、被告の主張1の(二)の(1)の<2>の({1})ないし({5})に記載の趣旨の理由が記載されていることは、当事者間に争いがない。右附記理由は、損金経理された本件株式の評価損が損金とならないことを説明したもので、否認の対象事項及びその金額の特定について欠けるところはないといえる。否認の理由については、原告は本件株式につき施行令六八条二号ロの規定に定める特定事実が生じたとして本件評価損計上をしたところ、本件更正は本件評価損計上に関する原告の帳簿書類の記載自体を否認せず、その帳簿書類の記載を前提にした上で、本件評価損計上を否認したものであるが、右附記理由は、本件評価損計上の時点から一一か月前に本件株式の発行法人である訴外会社が増資を行い、原告がその増資による新株の払込みをしたとの事実を取り上げ、右事実関係においては右規定に定める評価損の計上が認められる特定事実に該当しないとの判断を示しているものと認められるので、処分庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制し、処分の相手方に更正の理由を知らせ、不服申立ての便宜を与えるという理由附記制度の目的に反するものとはいえない。なお、右事実関係が施行令六八条二号ロの規定に定める特定事実に該当するか否かの判断は法的評価に属する問題であるから、その法的評価を採用するに当たって供された資料等が附記理由の中に具体的に示されていなくても、そのことによって理由附記に不備があるということにはならない。

したがって、原告の右主張は採用できない。

三  原告の本件事業年度の所得金額

1  被告の主張1の(一)の(1)及び(3)の事実は、当事者間に争いがない。

2  加算項目の金額

原告が本件事業年度の確定決算において、法人税法三三条二項、施行令六八条二号ロに基づき、本件株式につきその帳簿価額(円表示で四五億七五五八万七四八九円)を零円に減額し、その減額した四五億七五五八万七四八九円を損金に算入する経理(本件評価損計上)をしたことは、当事者間に争いがない。そして、右の損金経理によって申告所得(欠損)金額が算出されたのであるから、その損金経理が認められない場合には、減額した金額に相当する金額を加算すべきことになる。

3  そこで、本件株式の評価損の損金算入の当否について検討する。

(一) 法人税法における資産の評価損の取扱い

(1) 法人税法は、内国法人の各事業年度の所得金額の計算につき、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする旨定め(同法二二条一項)、損金の額に算入すべき金額につき、同条三項に定める売上原価、完成工事原価等の原価の額(同項一号)、販売費、一般管理費等の費用の額(同項二号)、資本等取引以外の取引に係る損失の額(同項三号)のほか、別段の定めがあるものと定めている。資産の評価損は右各号の損金に該当するものではないので、その損金該当性の有無は、別段の定めによることになる。

(2) 法人税法三三条は資産の評価損の取扱いを定めた規定であるところ、同条によれば、原則として、内国法人がその有する資産につき評価減をして評価損の損金経理をした場合でも、その金額は所得金額の計算上損金に算入しないこととし(同条一項)、その後の所得金額の計算においては、当該資産につき評価減がされていないものとみなされ、評価減前の帳簿価額により計算することを明らかにしている(同条三項)。しかし、例外的に、金銭債権を除く資産につき、災害による著しい損傷その他の政令で定める特定事実が生じたことにより、当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることになった場合において、当該法人が当該資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、その減額した部分の金額のうち、その評価換え直前の当該資産の帳簿価額とその評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額との差額に達するまでの金額は、当該事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入することを認める(同条二項)。そして、同項による委任を受けて施行令六八条が金銭債権を除く資産ごとに特定事実を定めているが、本件株式は、非上場株式(かつ気配相場のない株式)であることは当事者間に争いがないので、同条二号ロに掲げる資産に該当するものである。

(3) ところで、法人税法では、右(2)のとおり、原則的に資産の評価損の損金算入を認めず、特定事実が生じた場合に限りこれを認める旨の規定が置かれているが、商法二八五条、二八五条の六第一項、三項及び企業会計原則第三の五のBは、取引所の相場のない株式の評価についてそれぞれ原価主義を原則としながらも、右商法の規定は発行会社の資産状態が著しく悪化したとき、また、右企業会計原則の規定は株式の実質価額が著しく低下したとき、それぞれ相当の減額をしなければならないものとして、その限度で評価損の計上を必要的なものとしており、法人税法三三条と必ずしも軌を一にしてはいない。

原告は、この点に関して、法人税法は、特定事実が生じた場合の評価損の計上が必要的であるとも任意的であるとも規定していないとした上で、同法二二条四項が所得金額を算出する基礎数値となる益金及び損金の額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準によって計算されるものとする旨定めていることを根拠に、結局同法は商法及び企業会計原則に依拠するものであるとして、これらと統一的な取扱いをすべきであると主張する。

確かに、法人税法二二条四項は法人の所得計算が企業会計に準拠して行われるべきことを当然の前提としており、同項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」の中心となるのは企業会計原則であると解されるし、また、同法七四条一項は内国法人の確定申告は「確定した決算」に基づいて行うべきことを定めていること等からすると、同法の会計規定は商法の会計規定を念頭に置くものであるといって差し支えない。

しかし、他方で、法人税法は法人の所得計算について商法や企業会計原則とはかなり異なった規定を置いている。これは、商法の会計規定や企業会計原則が考えている企業会計は企業に対する投資家や債権者に必要な会計情報を提供することをその中心的課題としており、保守主義の原則(安全性の原則又は慎重の原則ともいわれる。)も考慮する必要があるのに対し、税法は担税力を適正に評価して公正な課税を実現することを目的とし、他方で種々の政策目的の実現を課題とすることも少なくない上に、課税技術上の要請も考慮する必要があるからである。このように法人税法が特に商法や企業会計原則とは異なった規定を置くことはあり得ることであって、その場合には課税の関係では法人税法の規定によるべきことは当然のことであり、同法二二条四項はもとよりこのような同法の明文の規定を排除する意味を持つものではないことはいうまでもない。

法人税法三三条も右に述べたような規定の一つであり、同条一項は商法の規定等により適法ないしは公正妥当に評価損の計上処理がされた場合を前提とした上で、そのような場合であってもなお同法上は損金算入を認めないとの原則をうたったものであって、これは同条三項が損金に算入されなかった場合における次年度以降の所得金額の計算の関係での帳簿価額の取扱いを規定していることからも明らかである。原告は、法人税法は特定事実がある場合の評価損の計上を必要的であるとも任意的であるとも規定していないとしているが、これはそれ自体としては正にそのとおりであって、同条は単に評価損の損金算入の可否についてのみ規定しているにすぎず、帳簿価額が下落した場合にその貸借対照表価額をどのように計上するかは商法や企業会計原則の規定するところである。したがって、商法や企業会計原則の資産評価の定めと法人税法三三条の規定とを同列に置いてその要件を比較するのは必ずしも当を得ず、同条二項の損金算入を認め得る場合の要件については同法の趣旨目的に照らして理解されなくてはならない。

そうすると、法人税法三三条は商法及び企業会計原則に依拠してそのとおりに解釈すべきであるとする原告の右主張は、採用することができない。

(二) 本件株式の評価損の損金算入の要件

(1) 施行令六八条二号ロは、証券取引所に上場されていない株式等の有価証券に係る特定事実として「その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したこと」と定めているところであり、要するに、本件株式について評価損を計上し、これを損金に算入することが認められるには、訴外会社につき評価損損金算入要件(被告の主張2の(二)の(1)参照)の(a)の事実が生じ、それによって、本件株式につき評価損損金算入要件の(b)の事実が生じた場合でなければならない。

そして、右規定で定める特定事実は、右にみたとおり一般的、抽象的に表現されているところ、資産状態の悪化及び有価証券の低下がどの程度のものであれば右事実に該当するといえるかについて具体的に検討するに、法人税課税の実務において採用されている評価損損金算入要件の(a)に関する基準である法人税基本通達九-一-九の(1)、(2)(被告の主張2の(二)の(3)の<1>の第一段で主張されているもの)、同要件の(b)に関する同通達九-一-一〇、九-一-七(被告の主張2の(二)の(3)の<2>の第一段で主張されているもの。ただし、回復見込みの点は除く。その点は後記(2)で述べる。)が掲げる各事実は、その内容に照らし、少なくともその程度に達していれば一般に資産状態の悪化が著しいこと又は価額の低下が著しいことを認めるに足りる状態であるといって差し支えないものといえるから、評価損損金算入要件の具体的判断基準として合理性を有するものと認められる。

(2) ところで、<1>、法人税法は資産の評価損の損金算入を原則として認めていないから、その例外である資産の評価損の損金算入を認むべき特定事実についてはこれを限定的に解するのが自然であること、<2>、施行令六八条は法人税法三三条二項を受けて定められたものであるが、同項では、特定事実の定めを政令に委任するにつき、「資産……につき災害による著しい損傷その他の政令で定める事実が生じたこと」と定めており、特定事実の例示として災害により著しい損傷が生じたという事態を挙げており、このような規定の仕方に照らせば、政令で定める特定事実は、災害による著しい損傷と同程度ないしはそれに準ずる程度に資産損失を生じさせるような事態であると考えるのが一般的には相当であり、しかも、右の事態については、災害により資産が毀損し、その程度が著しく、そのため異常な資産価値の減少が生じた状態と同程度ないしはそれに準ずる程度の事態であることからすると、それによる資産価値の減少は通常の予想を超えたものであって、その減少状態は、一時的又は回復の見込みがないとはいえない状態ではなく、固定的で回復の見込みのない状態ないしはそれに準ずるような状態であると解されること、<3>、法人税法は、評価益についても、会社更生法による更生手続開始の決定に伴い行われる評価換え、法人の組織変更に伴う評価換え及び保険会社の行う株式の評価換えによる評価益の発生を除いては、評価益の益金算入を認めていないので、一時的あるいは回復可能性がないとはいえない有価証券の価額の低下の場合に評価損の損金算入を認めると、その後仮に価額が回復したという場合に、これを税務会計上益金としてとらえることができず、容易に利益操作、租税回避を認めるのと同様の結果になることなどからすると、有価証券の価額が著しく低下した状態というのは、帳簿価額(取得価額が付される。商法二八五条の六第一項参照)で評価されている有価証券の資産価値が、その帳簿価額に比べ異常に減少しただけでは足りず、その減少が固定的で回復の見込みがない状態にあることを要するというべきである。

これによれば、有価証券の価額の低下をもたらす原因事実である発行法人の資産状態の悪化についても、それが一時的なもので、回復する見込みがないとはいえないような場合には、その結果としての有価証券の価額の低下も固定的でなく、回復する見込みがないとはいえないことになるから、結局、発行法人の資産状態の悪化についても、その悪化が固定的で回復の見込みがない状態にある場合に初めて著しく悪化したというべきである。

(3) 原告は、評価損損金算入要件の各事実につき、回復の見込みがあることが評価損の損金算入を認めない障害要件となるので、評価損の損金算入を否定する被告が回復の見込みがあることについて主張立証責任を負うと主張する。

しかし、資産の評価損の損金算入は例外的に認められるものであるから、所得金額の計算上資産の評価損を損金に算入しようとする者が、その評価損を損金に算入し得る特定事実の存在につき主張立証責任を負うというべきであるところ、評価損損金算入要件の各事実そのものが固定的又は、回復する見込みのない状態にある資産価値の異常な減少又は資産状態の異常な悪化を指すものと解すべきことは右(2)で述べたとおりであるから、評価損の損金経理を行う原告が、特定事実である評価損損金算入要件の(a)及び(b)の各事実の存在につき主張立証責任を負うということは、必然的に、右各事実につき回復の見込みがない状態にあることについても主張立証責任を負うことになると解するのが相当である。

したがって、原告の右主張は採用できない。

(三) 訴外会社の資産状態の著しい悪化(評価損損金算入要件の(a)の該当性)の有無

(1) 原告は、訴外会社の資産状態が著しく悪化したとの事実について被告が自白したとし、その撤回には異議がある旨主張する。

原告は、被告の昭和六〇年一二月一八日付け準備書面(三)の二の第一段でした被告の主張部分をとらえて、被告が訴外会社の資産状態が著しく悪化したとの事実を認め、これにつき自白が成立したと主張しているものと解されるところ、被告の右主張部分は、訴外会社の昭和五六年六月三〇日当時及び昭和五七年五月三一日当時の貸借対照表上の勘定科目の各金額を基にして算出される訴外会社の純資産価額及び一株当たりの純資産価額を前提にして、これを訴外会社の資産状態として見た場合には、訴外会社の資産状態は昭和五六年六月三〇日から昭和五七年五月三一日の一一か月の間に著しく悪化したものと認めることができる、との評価を表明したものであって、仮定的な主張であるとともに、一定の事実を前提とする評価の表明であるから、訴外会社の資産状態が著しく悪化したとの事実につき自白が成立したものとはいえない。

したがって、原告の右主張は失当である。

(2) 原告は、本件事業年度末における訴外会社の資産状態は、累積損失が四〇五五万九〇七三ドルであり、一株当たりの純資産価額はマイナス一〇一ドルに達しており、著しく悪化していたと主張する。

<証拠>によれば、原告が主張する右の累積損失の金額は、訴外会社の昭和五七年五月期の貸借対照表に基づくものであり、一株当たりの純資産価額は、右貸借対照表上の総資産の合計額から総負債の合計額を差し引いて純資産価額を算出し、それを発行済株式数で除して算出したものであることが認められる。

なお、本件では、右の訴外会社の昭和五七年五月期の貸借対照表を含めて、訴外会社(商号がTKCであったときも含む。)、KEの財務諸表が提出されており、その内容の信憑性が問題となる。訴外会社、KEは外国会社であり、その財務諸表の信憑性を被告において検討する手段は国内会社に比べて限定されていることは否めないが、それにしても、被告はその信憑性を抽象的に攻撃するだけで、具体的に攻撃していないので、以下の認定においては、その内容を一応信頼し、これをそのまま用いて判断することにする。また、資産状態の悪化を考えるに当たって、資産等の価額につきその貸借対照表の価額のほか時価も考慮すべきではあるが、本件では、訴外会社の資産等につき貸借対照表の価額しか判明しないので、これのみを用いることとする。

(3) そこで、まず、訴外会社の資産状態について検討する。

<1> 請求原因2の(三)の(1)の<2>の({1})、({2})(ただし、原告が昭和四四年七月三一日に株式配当により取得した三五〇株の取得価額及び本件株式取得価額の合計が一九九〇万五〇〇〇ドルを超えることは除く。)の事実、訴外会社が昭和五六年六月三〇日に九五〇万ドルの第一次増資を行い、原告が右増資に係る新株式の全部を引き受け、それに係る株式全額の払込みをしていること、右払込金のうち四四一万四〇三六ドルが原告からの借入金の返済に充てられ、残額の五〇八万五九六四ドルがトリオケンウッドエレクトロニックスN・V社からの借入金及び未払利息の返済に充てられたこと、訴外会社が昭和五七年七月二一日に一九八五万ドルの第二次増資を行い、原告が右増資に係る新株式の全部を引き受け、それに係る株式全額の払込みをしていることは、当事者間に争いがない。

<2> 右<1>の争いのない事実に、<証拠>を総合すれば、以下の事実が認められる。

({1}) 訴外会社は、昭和五〇年五月九日、通信機の販売を目的として設立された会社(当時は、トリオケンウッド・コミュニケーションズ・インコーポレイテッド(TKC)という商号であった。)であり、その発行済株式の全部(後記合併の直前のそれは六五〇〇株であり、一〇〇ドル株であるので資本金は六五万ドルであった。)を原告が保有する、いわゆる原告の子会社であるが、昭和五六年五月一五日、音響機器の販売を目的として昭和三六年に設立され、その後その発行済株式一〇万株(一〇〇ドル株であるので、資本金は一〇〇〇万ドルである。)の九七・九パーセントに当たる九七万九〇〇〇株を原告が保有する原告の子会社であるKEを吸収合併して(なお、TKCが自己に比べ資本規模の圧倒的に大きいKEを吸収合併したのは、後記のとおり、合併当時TKCが黒字会社であったのに対し、KEが赤字会社であったことによるものと考えられる。)、商号を現在のケンウッド・U・S・A・コーポレーションに変更し、米国ロスアンゼルス市カーソンに本店を置き、原告の製品である音響機器及び通信機等を専属的に輸入し、米国内で販売している会社である。原告の訴外会社に対する販売高は、昭和五六年当時、原告の全販売高の約二五パーセントを占めていた。

({2}) KEは、昭和五二年ころ当時、その経営状態が安定していた会社であったが、昭和五三年から昭和五四年にかけて、円高が進行した時期に仕入れた商品の在庫量が増加したことと、そのころ米国の景気が悪化し、低迷していたことなどから経営不振が続き、多量の在庫を抱え込むことになり、昭和五三年七月期(昭和五二年八月一日から昭和五三年七月三一日までの事業年度を指す。当時は八月一日から翌年七月三一日までの期間が事業年度であった。)には期間損失が発生するようになり、さらに、昭和五四年五月期(昭和五三年八月一日から昭和五四年五月三一日までの事業年度を指す。同年度から事業年度の終期が五月三一日となり、次年度からは六月一日から翌年五月三一日までの期間が事業年度となった。)には、大きな期間損失が発生し、同期末の累積損失は一一六七万〇八三二ドルとなった。

一方、TKCは、設立以降継続して経営状態が安定しており、昭和五四年五月期(昭和五三年六月一日から昭和五四年五月三一日までの事業年度を指す。)の剰余金は一〇九万九九五一ドルであった。

({3}) 小松万豊は、昭和五四年一一月一日、KEの経営立直しのため、原告の海外担当常務取締役を兼ねたままKEの代表取締役社長に就任し、昭和五五年以降、KEの経営改善に取り掛かった。同人は、右就任直後、KEの経営改善策として、(a)、当時四〇〇〇万ドル分以上あった過剰在庫を改善し、在庫量を適正なものにすること、(b)、新規の商品であるカーステレオ、ビデオの販売に力を入れること、(c)、経費を節減すること、(d)、販売状況の悪いシカゴ方面については販売力の増強を図ること、という改善を図りつつもやや積極性のある経営方針を立て、その実行に移ったが、米国の金融市場から借り入れていた運営資金の金利が二〇パーセントを超えるものであったことからその金利負担がかさみ、また、在庫商品の大部分が円高時期に仕入れたものであって、しかも、いわゆるB商品といわれる競争力のない古い商品であったため、その利益率が悪く、かえって廉売による損失が発生したことも重なり、昭和五五年五月期にも期間損失が発生し、KEの同期末の累積損失は一七七八万三七三四ドルになった。一方、TKCは、同年五月期にも期間利益を挙げ、同期の剰余金は一八四万三三六七ドルとなった。

({4}) 小松万豊は、昭和五五年六月からは、KEの経営改善策につき、(a)、過剰在庫の改善を継続徹底すること、(b)、借入金の金利負担を削減すること、(c)、人件費等の固定費を削減すること、(d)、新商品の販売を促進すること、(e)、会社組織の機構改革を行うこと、という従前の方針を修正し、不採算の部分を切り捨てるなどの縮小均衡を目指す経営方針を立て、新商品の在庫量が増えていたにもかかわらず昭和五六年一月には全体の在庫量を約二〇〇〇万ドル分にまで減少させ、同年秋ころにはシカゴ方面の販売状況が思わしくないのでシカゴ事務所を閉鎖し、これと並行して人員削減を進めた。

({5}) 原告は、右のように、同じ米国内にある子会社の一つが利益を上げ、法人税を支払っているのに、もう一つの子会社では累積損失が増加する状態であり、その間の不均衡が甚だしかったこと、及び、米国では、赤字会社を吸収合併した場合に米国税法上の優遇措置が受けられることを検討し、TKCの利益吸収をも目的にTKCとKEを合併させることとし、昭和五六年五月一五日、本件合併が行われ、小松万豊が合併後の訴外会社の代表取締役社長に就いた。しかし、訴外会社の営業体制は、TKC及びKEそれぞれ固有の事業につきそのまま事業部制に移行したものであった。

({6}) 小松万豊は、本件合併とは別に、KE(部門)の欠損金発生の主たる原因が高金利負担にあったことから、経営改善策の一環として、金利の負担増につながらない借入金の返済原資を調達することができればKE(部門)の赤字経営体質が改善できると考え、かねてから親会社である原告に増資計画を打診していた。原告は、昭和五六年六月二四日、KE部門の経営改善策の一方策として増資に応じることを正式に決定し、訴外会社は、昭和五六年六月三〇日、九万五〇〇〇株、九五〇万ドルの第一次増資を行い(なお、その直前の発行済株式は一〇万六五〇〇株であった。)、その全部を原告が引き受けた。第一次増資による払込金は、うち四四一万四〇三六ドルが原告からの借入金全額との相殺による返済に、残金五〇八万五九六四ドルがベルギーに本社を置く原告の子会社トリオケンウッドエレクトロニックスN・V社からの借入金及び未払利息の返済に充てられた。

({7}) 訴外会社は、昭和五六年に本件合併及び第一次増資を経たのであるが、他方、昭和五五年六月からの右({4})の在庫調整、人員整理等の縮小均衡を目指すKE(部門)の経営改善策が緒につき、新商品のカーステレオ及びビデオデッキの販売高が伸びていたが、米国金融市場からの借入金の返済はできず、依然としてこれに対する二〇パーセントを超える高金利を負担していた状態にあったこと、米国内が依然として慢性的な不況状態にあったこと及び日本の大手家電メーカーがこのころ米国に進出してきて販売競争が激化したことなどが原因で、KE部門では昭和五六年五月期も一四〇〇万ドル余の期間損失が発生し、同期末のKE部門の累積損失は三二一九万六五二八ドルになった。一方、TKC部門は、同期も期間利益を上げ、同期の剰余金は三六九万〇一四八ドルになった。

({8}) 小松万豊は、昭和五七年六月、訴外会社の代表取締役社長を退任し、同人に代わって、昭和五六年六月から訴外会社の副社長をしていた長谷川正峰が代表取締役社長に就任した。同人も、小松万豊のKE部門の経営改善策を踏襲した上、更に統一的な販売組織の確立、指揮系統の本社集中等の経営改善策を実施したが、KE部門の実績をみると、第一次増資後も昭和五七年六月(第二次増資のあった月の前月)までの間は円高、不景気に対処するための新規借入れがされ、同月時点の借入金残高は、輸入決済借入金約一六五〇万ドルを含めると約六五二〇万ドルに達したものの、同年五月期の期間損失の発生額そのものは前期のそれより僅かに減少し、同期末の累積損失は四六五二万八〇六三ドルであった。なお、TKC部門は、同期も期間利益を上げ、訴外会社全体では、同期の期間損失の発生額が前期のそれより若干減少し、同期の累積損失は四〇五五万九〇七三ドルであった。

({9}) 長谷川正峰も、KE部門の赤字経営体質の改善には、借入金を減少させることが必要と考えていたことから、昭和五七年に入り原告に増資計画を打診していたところ、同年五月ないし六月ころ、原告が第二次増資に応じることを決定し、訴外会社は、同年七月二一日、一九万八五〇〇株、一九八五万ドルの第二次増資を行い(なお、その直前の発行済株式は二〇万一五〇〇株であった。)、原告がその全部を引き受け、その払込金全額が借入金の返済に充てられた。訴外会社は、第二次増資以後、新たな借入れを行っておらず、借入金残高も漸減しており、昭和五七年五月期末の支払利息が約九二〇万ドルであったものが、昭和五八年五月期末には約三九〇万ドル減少して約五三〇万ドルとなり、同期の期間損失は前期に比べて半減し、さらに、昭和五九年五月期には一二万株、一二〇〇万ドルの増資(以下「第三次増資」という。この増資も原告がその全部を引き受けたものと考えられる。)がされたこともあって、同期末には、支払利息が更に減少するとともに、他方売上が増加し、同期には僅かではあるが期間利益を計上するに至った。KE部門についてみると、期間損失の発生額は順次確実に減少し、昭和六〇年五月期には期間利益が発生するまでに至っている(なお、TKC部門はその間も着実に利益をあげていた。)。右状況はその後も続いたが、昭和六一年一一月以降は、円高が原因で月次欠損金が発生している。

なお、訴外会社の昭和五六年五月期から昭和六〇年五月期の間のTKCとKEとの連結財務諸表の内容は別表五のとおりである。

({10}) ステレオ・レビュー社が行った昭和四九年から昭和五八年の間を対象にしたレシーバー、チューナー、アンプ、レコードプレーヤー、カセットテープデッキの五種類の音響機器製品の市場調査によれば、米国内で販売された右各製品販売金額高のうち原告の右各製品が占める割合は、数値だけでみると減少傾向を示しているものが多いが、他方、訴外会社の売上高は上昇傾向にあり、また、昭和五八年ころから米国の景気は上向きの傾向に転じた。

以上の事実が認定でき、<証拠判断略>。

<3> 右<1>、<2>の事実関係に基づき考えるに、訴外会社(KE部門)の赤字体質をもたらしている最大かつ直接の原因は、本件合併前の円高、米国内の不景気等の諸原因に対処するためにKEが借り入れた借入金に対する高金利負担であったところ、KEにおいて昭和五四年から始まった小松万豊あるいは長谷川正峰を頂点とする経営陣の経営改善策により、訴外会社は、遅くとも昭和五六年末ころには、累積損失及び借入金の金利負担を別にすれば、さほど大きな期間損失を計上しないですみ、さらに数期を経ずして期間利益が生ずることが相当の確実性をもって見込まれた状態にあったものと推認することができる。

また、訴外会社は、第一次増資の直前の累積損失がその当時の資本金一〇六五万ドルに対し約三〇〇〇万ドルという巨額なもので、二〇〇〇万ドル弱の債務超過の状態にあったが、原告はそれでも積極的に増資に応じ、訴外会社は、九五〇万ドルの第一次増資によって原告及びその関連会社に相殺又は弁済によって借入金を返済し、累積損失の増加が改善される方向にあった。もっとも、借入金の返済が高金利のものにまで必ずしも及ばず、したがって、訴外会社においては、昭和五七年五月期には、第一次増資があったにもかかわらず、なお相当の期間損失が発生し、その額も前期を若干下回るに止まったが、原告としては、第一次増資当時、訴外会社の業績が長期的には改善の方向に向かうが、しばらくは期間損失が生ずるであろうということも十分予測し得たものと考えられるのである。

このように、訴外会社が巨額の債務超過の状態にあり、従前の資本金の額に近い九五〇万ドルの第一次増資をしても債務超過が解消しないばかりか、なおしばらくは期間損失の発生も予測し得たのに、原告が訴外会社の右増資払込みに応じたことは、訴外会社が原告の全面的な支配下にある子会社であって、原告の重要な市場である米国における原告の製品の専属的な販売会社であり、実質的には原告の一部門、すなわち原告の分身ともいうべきものである(それ故、訴外会社の業績等も、原告の経営政策により左右される面が大きい。)ことによるものである、ということができる。

ところで、原告が訴外会社に対し、第一次増資の払込みに応じたのは、訴外会社が原告にとって右に述べたような重要性を有するからであるが、このことは、原告が、第一次増資当時、訴外会社に対し少なく見積っても第一次増資の払込金程度の経済的価値を認めていたものといってよい。さらに、原告は、第一次増資の約一年一か月後には一九八五万ドルの第二次増資に応じ、その翌々期には一二〇〇万ドルの第三次増資に応じているのであり、右の第二次増資は、その額及び第一次増資からの期間からみて、第一次増資の時点において、既に相当の蓋然性をもって予定されていたものと推測され、また、本件評価損計上の時点のころには、計画として具体化していたものといえるし、第三次増資についても、右両時点で全く予定されていなかったものとはいい難い。そうすると、原告は、訴外会社に対し、第一次増資当時、第一次増資の払込金だけではなく、第二次増資の払込金、場合によれば第三次増資の払込金をも併せた額と同程度ないしはそれ以上の経済的価値を認めていたものといい得ないわけではなく、原告は、第一次及び第二次増資あるいは第一次ないし第三次増資による相乗効果のもとに訴外会社の体質改善を意図していたものといっても過言ではないと考えられる。

そして、流動資産中の当座資産としての有価証券とは異なり、固定資産中の投資その他の資産としての有価証券は、相当に長期間の保有が前提となっており、殊に本件のように原告の分身ともいうべき訴外会社の株式については、よほど特段の事情でもない限り、原告はこれを手放すことは考え難いのであるが、このような極めて長期的に亘って保有が前提とされている株式については、評価損の計上も、かなりの長期的な見通しを考慮して行われるべきであり、したがって、評価損損金算入要件の(a)の資産状態の著しい悪化についても、同様の考慮がされてしかるべきである。しかるところ、原告は、第一次増資以前に訴外会社の株式を一〇万四四〇〇株(額面合計一〇四四万ドル)保有していたところ、第一次増資はそれにほぼ匹敵する九万五〇〇〇株(額面合計九五〇万ドル)であるから、この総計一九万九四〇〇株の評価損を考えるための資産状態の著しい悪化も、とりあえずは、第一次増資の時点を基点にして考えることが許されるといってよい。しかるところ、これまでに述べた諸点を考えると、少なくとも第一次増資から一一か月を経たにすぎない本件評価損計上の時点のころにおいては、単に数額のみに着目すると資産状態の悪化が著しいとの見方もあろうが、もともとその時点の状態は、原告においても十分に予測可能といわば予定された状態ともいうべきであり、以後、第一次増資のころから相当の蓋然性をもって予定されていた第二次増資と相俟って、訴外会社の資産状態は、長期的な見通しに立つ限り、全体としてみると、改善される方向にあったといってよい。しかも、先に述べたように、原告が訴外会社に対し、第一次及び第二次あるいは第一次ないし第三次の各増資払込金を併せた額と同程度ないしはそれ以上の経済的価値を認めていたといってよいことから考えると、単に数額的に債務超過にあり又はその債務超過の額がある程度増加したからといって、その債務超過の状態が原告にとって予測し難い新しい事態によって発生したなどの特段の事情が認められるのであれば格別、右事情が認められない本件にあっては、評価損損金算入要件の(a)の資産状態の著しい悪化が生じたものと判断するわけにはいかない。

(4) 以上によれば、本件評価損計上の時点においては、訴外会社の資産状態が著しく悪化したこと(評価損損金算入要件の(a)の事実)が認められないから、その余の点につき判断するまでもなく、本件評価損計上は、法人税法上、これを是認することができない。

4  右1ないし3によれば、原告の本件事業年度の所得(欠損)金額は、申告所得(欠損)金額の欠損四八億四五四九万二一九一円に加算項目の金額四五億七五五八万七四八九円を加算し、減算項目の二二万二〇六〇円を減算した欠損二億七〇一二万六七六二円となる。

四  本件更正の適法性

本件更正は、その理由附記の点においては、前記二のとおり不備なものであるとはいえず、所得(欠損)金額の点においては、右三の4の本件事業年度の所得(欠損)金額の欠損二億七〇一二万六七六二円と同額であるので、適法である。

第二  通知処分の取消請求

一  請求原因2の(一)、(二)及び(四)の事実(本件還付請求、本件通知処分及び不服申立ての経由)は、当事者間に争いがない。

二  還付請求金額

1  請求原因2の(三)の(1)の<1>及び(2)の事実は、当事者間に争いがなく、本件事業年度の所得金額の計算上、本件評価損計上を是認することができないことは、第一の三の3で判示したとおりであって、原告の本件事業年度の所得(欠損)金額は、第一の三の4のとおり二億七〇一二万六七六二円となる。

2  したがって、右欠損金の繰戻しによる還付金額は、別表二の「欠損金の繰戻しによる還付請求(の一部)に理由がない旨の通知処分」欄に記載の計算のとおり九九三三万四〇二八円となるから、これを超える部分の本件還付請求は理由がないとした本件通知処分は適法である。

第三  結語

よって、原告の本件請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 佐藤道明 裁判官 青野洋士)

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